下り坂を楽しもう

人生を折り返して、下り坂も終わりに近い爺の戯れ言

ある思いで。

あれは丁度、三人の子供を育てている最盛期の頃だった。
いつもの通り仕事を終えて、さて今日の夕食は何にしようかな。
そう考えながら、夕食の材料を買うためにスーパーマーケットに寄った。
すると、スーパーの棚に並んでいる材料を選んでいる僕の前に。
一人の女性がきて僕の行く手を遮った。

それは周囲の生活感のある人たちとは明らかに違っていた。
彼女はきれいな柄のワンピースを着ていた。
髪形や容姿もきれいな人だった。
そして表情はニコリともせずに緊張の面持ちだった。
それをみて、どうしたんだろうと僕は思った。

周囲の目もあったから僕は向きを変えた。
邪魔にならないように、別の商品のコーナーに向かった。
するとまた、僕の前に立ちはだかってきた。
私をよく見てと言っているかのようだった。

僕は三人の子供が、ツバメのひな鳥ではないが、大きな口を開けて僕の帰りを待っている。
だから、申し訳ないと思いながら、また無視を続けた。
そうこうするうちに、いつの間にか彼女の姿はなくなっていた。

いま思うと、あの彼女の行動には、どんな背景があったのだろうか。
パートナーの人が浮気をしたので、自分も仕返しをしようと思ったのだろうか。
その辺のところは、僕の知る由もないけど。
もし、いまこうして子育ても終わったときなら、どう対応しただろうか。

彼女を見て、ニコッと笑ってこう言ったかも。
「今夜のメニューは決まりました?」
でもあの時の彼女はスーパーの籠も持っていなかった。
よっぽど切羽詰まった状態だったのだろうか?

今までたった一度しか体験しなかった、思い出である。